理事長挨拶

CT技術における研究発表のすすめ

市川 勝弘

特定非営利活動法人 日本CT技術学会 理事長
金沢大学医薬保健研究域 保健学系
市川 勝弘

 日本CT技術学会は、CTに関わる診療放射線技師や医工学技術者を中心に、検査技術の向上や機器開発に貢献するために、2012年12月より活動を開始しました。そして2017年12月22日を持ちまして、特定非営利活動(NPO)法人日本CT技術学会としての登記が完了致しました。今後も、わが国におけるCTに関する基礎及び応用技術研究の促進を図り、人類の福祉・医療に貢献することを目的として、より一層積極的に活動してまいります。

 本会の活動は、年1回以上の学術集会(演題発表、セミナー)及びホームページと学会誌を通した情報発信を基本とします。毎年、学術大会及びシンポジウムを通じて、臨床に活きる優れた研究成果が報告されております。本学会の学会雑誌にはこれまで数多くの査読付き論文が掲載され、CT技術に関する最新かつ有益な情報が発信されています。また、学会公認のCT画像計測プログラム「CTmeasure」は、標準ツールとして定着し,当学会だけでなく日本放射線技術学会におけるCT技術研究に活用されています。
 また、「日本CT技術学会 テクニカルガイドライン」を研究実績と豊富な臨床経験のあるテクニカルガイドライン委員を中心に発刊し、年1回程度のペースで更新して参りました。さらには、テクノクリニカルアドバイザー(TCA)制度により、臨床現場のエキスパートの方々にアドバイザーとして本学会に対するサポートを頂いております。
 引き続き、皆様にはご支援のほどよろしくお願いいたします。

 さて、以下に、最近軽視されつつある学会における研究発表について、所感と共にお願いを述べさせていただきます。

研究発表のすすめ(先輩や指導者の皆様に)

 学会の三本柱は、どこの学会でも“論文”、“研究発表”、“教育”です。研究発表は、論文を書いて世に研究成果を公表し社会貢献をする、または貢献のための一情報を提供するための前段階として不可欠なものです。よって、論文の足がかりとなるという観点で最も大切なものでもあります。
 研究発表は、決められたルールの中で非常に短い時間で行われます。与えられた時間が短いからといって、時間超過をすることは、研究者の倫理及び社会通念上あってはならないことです。そしてルールと時間制限があるために、研究発表では発表者またはその“指導者”の力量が大きく影響します。若手に試しにやらせる風潮がありますが、指導者にはルールを遵守して研究内容を的確に伝える技術と技量、すなわち研究における原理・原則の正確な知識が必要であり、それを無しに“試しにやらせる”ことは困難です。

発表内容に求められるもの

 背景→目的→方法→結果→考察→リミテーション→結論。これらの解説がほとんどの場合義務付けられます。発表者とその指導者は、これらに求められる最低限のルールや遵守事項を知る必要があります。

背景

 背景では、自分の研究のモチベーションとなったこれまでの情勢を簡潔に述べ、研究の必要性を説きます。これは決して“施設個々の事情に基づくものではなく”、広く一般に認められるものでなければなりません。そのためには、過去にどのような研究成果が報告され、実際に医療現場でどのような手法が一般化しているか、丹念にリサーチする必要があります。
 そのための一助として、JSCTでは、過去の研究論文を広く調査してまとめ上げたJSCTテクニカルガイドラインを会員向けに提供しています。JSCT会員はこれを閲覧することで、研究背景を知ることができ、自身の研究のモチベーションをわかりやすく位置づけることができます。

目的

 目的は、背景から導き出された明確かつ達成可能な範囲のものでなければなりません。例えば、“・・の最適化”や、“至適条件の検討”をよく見かけますが、研究結果がそれを満たした発表を見ることはほぼありません。目的は、限定条件下で実現可能な範囲に留める必要があり、結論にはそれに対する明確な達成度が示されなければなりません。

方法

 方法は、研究を遂行した順序とそれぞれの理由付けを明確かつ簡潔に述べます。これは、決して行ったプロセスのすべてをスライドに詰め込むことを意味していません。聴衆に対し短い時間で主たる内容を理解してもらうには、プロセスの重要なところだけをスライドに提示することは、研究発表の基本の一つです。
 たとえば、「使用機器はスライドに示すとおりです」と話し、10行近い項目や数字を示すことがあります。このような行為は、発表者やその指導者が“聴衆の立場に立ち、自分の研究を理解してもらう”ことを疎かにしていることを公然と示している、と言っても過言ではありません。

結果

 結果は、比較対象が明確である必要があり、評価結果の妥当性がわかりやすく提示されていることが重要です。
 たとえば、グラフを4つ~6つほど同時に示して、「細かくて申し訳ありませんが」と前置きすることや、1つのグラフに多数の曲線が示されその指し示しもないことありますが、その発表には“聴衆に自分が示したい結果を理解してもらう”姿勢が感じられません。

考察

 考察では、結果のオウム返しで時間を費やすことがないことが重要です。研究目的と方法との関係から結果の意味するものが何なのかを、参考となる研究成果や明らかとなっている原理などと照らし合わせて、結果の妥当性や結果から分からなかったことを含めて述べます。

リミテーション

 最適化や至適条件の検討が適切でないことは、リミテーションの項目が研究発表(論文でも必須)に不可欠であることからも理解できます。条件を限定し研究目的を設定することで、結論を明確に示せるだけでなく、このリミテーションを述べることで、定めた条件を再度聴衆に示すことができます。

結論

 結論は、「目的」の目指すものが、どのように達成されたか、どの範囲で証明されたかを“簡潔に”に示します。必要以上に行数があるとか、聴衆が目的は何であったのかを疑問視するような内容であってはなりません。例として挙げた“最適化や至適条件の検討”のような達成確率の低い研究目的でなく,結論を明確にできるような目的設定を行うことが大切です。

<再度、研究発表のすすめ(先輩や指導者の皆様に)>

 研究発表は、学会の中で最も重要な位置づけにあります。JSCTでは、特にそれを重視しています。若手に“試しにやらせる”ことの多い先輩や指導者の皆様には、的確な指導の上で研究発表に導いてください。そして、自らが創造したアイデアで、社会貢献を目指し自らが発表を行い、若手研究者に刺激を与えてください。
 研究発表を継続することでひとまわり大きな力量が身につき、その長年の成果としてCT技術での真の社会貢献ができたならば、それはCT技術研究者としての大きな歓びとなり、後輩諸氏への更なる刺激となることでしょう。

2021年(令和3年)10月記